亡き姉は五歳五月の野に遊べ
初夏の風優しくて父母思う
ひとり生き春風さんと歩く姉
火箱ひろ
うららかやきりんの赤ちゃんお披露目に
耕すに鷺や鴉や付き歩く
夏近し弦の切れたる駅ピアノ
かるがものしあわせのかたちちゃぷんちゃぷん
馥郁と野ばら咲く道明るくて
おーたえつこ
紙垂折るや家族総出の祭前
祭来る辻々に斎竹立てて
斎竹の葉先かすめて神輿過ぐ
子蟷螂もう鎌振るふ術を知り
目の合うてじつと逸らさず子蟷螂
松井季湖
写真 季湖・紙垂(シデ)
ふくふくとつぼみふくらむ夏みかん
ふかふかの土のふくらみ竹の子だ
緑の夜サーカスのテント立ちあがる
花桐や切り離される連結車
それぞれの笑顔がはじけのばら咲く
たかはしすなお
パラソルのフリルぱふぱふ会いたいよ
約束の日やバス停の片かげり
聖五月シャカシャカシャカと泡立てる
新聞紙に薔薇をくるみて少年よ
梅青し生誕記念樹は二十歳
辻水音
影法師 ひとり若葉して老人
豆ごはん一人ランチもいいけれど
あいたくてそっと若葉の風に乗る
嘶きは耳の後から祭りくる
夏日ですバーガー食べる時はカバ
つじあきこ
写真 あきこ・杜若(大田神社)
天国も母の日子がゐる母がゐる
葉桜やたぶん最後と会いにいく
会ふためのマニキュアのいろ夏に入る
若葉風もう会へないと知つてゐる
夏夕焼寂しさ詠んでかるくなる
はしもと風里
甘酒や私たちって静かだね
細い首ぐいと伸ばして燕の子
笑ってる二人が多い冷房車
姫女苑ドラッグストアどんと建つ
先生の先生に会う五月晴
林田麻裕
茹でたての筍届く昼下がり
天国とつながる電話明日立夏
言伝は青葉の風に乗せましょう
薔薇活けて合わせ鏡の憂鬱
初夏の駅わたしすっかりエトランゼ
波戸辺のばら
写真 のばら・レモンの花